「子ども世代に渡せるRCの家づくり」のページに創造系不動産の代表、高橋寿太郎さんの著書「建築と不動産のあいだ」について短評しています。建築と不動産を、ファイナンスを含め相互に検討することの重要性について書いています。ぜひご覧ください。
書評「住宅が資産になる日」
「住宅が資産になる日」村林正次 著 プラチナ出版
7月20金曜日の夜、私が以前から親しくさせて頂き、プロジェクトも協働したことがある村林正次さんが、株式会社価値総合研究所を退職され、新たに「社団法人 不動産総合戦略協会」を設立され、そこの理事長になられたということで、その発足パーティーがあり、お邪魔してきました。
発足パーティーの様子。会のあった「LIFORK大手町」は、大手町ファーストスクエア一階にあるコミュニケーションスペース、新しいワークスペースのひとつ。
会には関係者の方も多く集まっておられて、村林理事長他のプレゼンテーションもあり、盛大でした。びっくりしたのは前から聞いてはいたのですが、この会に村林さんが執筆された「住宅が資産になる日」の出版が間に合っていたこと。聞けば当日の朝に届いたとのこと。
タイトルだけでも非常に共感する部分があり、早速拝読させて頂きましたが、ありそうであまりなかった、住宅の不動産としての価値について、本質から述べた本になっています。
日本の住宅の問題は、戦災による住宅不足の解消から全ては始まっています。早急に住宅を国民に供給しなければならないために、持ち家政策や、住宅公団等による公営住宅の供給など、様々な政策がとられましたが、住宅の供給が1960年代に解消してもなお、その政策は続けられ、抜本的な変化がみられないまま今に至っています。
現在、全国で流通している木造住宅は、不動産の評価として築後25年で資産としての価値がゼロになります。皆様が必死になって組んだ住宅ローンが、資産として手元に残りません。これでは、老後の住み替えや、子世代に住宅を渡すこともままなりません。その結果のひとつとして、空き家の大量発生という問題が全国的な課題となっているのは、周知の通りです。
これら多くの課題をもつ住宅問題に、住宅の歴史的な流れも踏まえながら(このあたりご出身の早稲田大学建築学科戸沼研究室の流れもあるのでしょうか)、不動産コンサルタントとして包括的な分析が書かれています。また、国内の良い事例や、海外の不動産の考え方等など紹介しながら、今後に向けた提案やヒントが書かれています。住宅や不動産に興味のある方、ぜひご一読を。
「社団法人 不動産総合戦略協会」は、これらの問題に向けて少しでも解決になるような提案をしていきたい、とのことでした。私たちが進めている高断熱住宅RCZシステムも、住宅の不動産価値を大きく上げ、ストックとして生かせるような目的に向けて展開しています。そんな中で、村林さんとはいくつかのプロジェクトを進めており、時期がきたらここでもご紹介出来ると考えています。
「子ども世代に渡せるRCの家づくり」のページに、「ストックとしての住宅」というコラムを書いています。「住宅が資産になる日」の内容にも近い部分があります。ご参考まで。
空襲後の東京、戦後の住宅不足の解消から日本の戦後住宅政策は始まった。
関原テラスハウスその後
当社が設計した賃貸住宅、関原テラスハウスのその後について、施工者も兼ねたお施主様、株式会社マイ・ライフの橋本社長をお伺いしてきました。足立区関原の住宅街に、最近はやりのワンルームでなく、家族向けのテラスハウスが二棟くっついて並んでいます。
竣工後評判は高く、両方とも今子連れ家族がお住まいになっているそうです。ユニット1の部屋数の多い方の住宅には5人家族がお住まいになっているとのことで、この地域は家族連れの重要がとても多いことが確認できました。庭付きの戸建てタイプで賃貸の良いものが少ないので、今後もこのような賃貸住宅の需要は多いかと思われます。足立区は小中学生がエリアによっては増加しており、今ではめずらしく学校のクラスが埋まっているところも多いです。この関原のテラスハウスも、学校から近いことも決め手だったそうです。また家事室の評判も良く、このような場を用意することが大きな魅力になると思います。竣工後もうまく使われていることは設計者にとっても嬉しいことです。
こちらの家事室について、短文を書いています。→家事室が欲しい
同じくマイ・ライフ関連のお仕事→リフォームですが、キッチンをつくる
素人でもわかるブロック塀の危険性判断
「子ども世代に渡せるRCの家づくり」のページに、今回の震災で問題になった「素人でもわかるブロック塀の危険性判断」について書いています。住宅やビル本体の耐震診断と違い、ある程度の見当は素人でもつくので、参考まで、問題ありそうであれば、専門家にご相談下さい。
大倉山ヒルタウン/ヴィンテージマンションの魅力
丘に沿って建てられた集合住宅。丘陵の高低差に合わせてヴォリュームが連続する。
プロジェクトの参考に大倉山ヒルタウンを見てきた。1970年代の竣工で、神奈川県建築賞を受賞したタウンハウスの名作である。大倉山の駅を降りて歩いて数分の丘の上に建っている。
ともかく特筆すべきはその緑の多さ、竣工後40年以上が経ち、植栽が根付いて自然の森の中に建っているように見える。市街地より気温が低く感じる。
階段の見上げ。思った以上に高低差がある。上下するだけでも良い運動。
棟と棟との間の小径。高低差をキャンティレバーで解消し、その下にアプローチを配している。階段の横に自転車のためのスロープ。いまはバリアフリーの関係もあり、この規模では、このような階段だけのの各住戸へのアプローチ構成は出来ないだろう。
階段をつなぐ屋上庭園。高低差のある間にあるこのような場が息抜きとなっている。
屋上庭園から屋根を見下げる。三角形の部分はトップライト。
一階、二階、三階は別の住宅になっている。それぞれの住戸へは階段でアプローチする。一階は通路側からは半地下的なレベル設定。坂道をスキップフロア的に使っている。
一部建物の下は駐車場に、高低差を存分に利用している。
建築からかなり経っており、このように高い丘に配置され、坂道の上にあるにも関わらず、いまだにこの集合住宅は人気があり、高値で取引されている。長い年月をかけて緑に囲まれた環境が、自分の住む集合住宅の中で森林浴ができるような環境が形成されている。時間をかけてつくられた豊かな坂道空間が、エリアのステイタスを上げている。関東でも屈指のヴィンテージマンションといえるだろう。
代官山ヒルサイドテラス/街路の復権←こちらも高低差を生かした日本を代表する集合住宅。でも、丘の上感は大倉山ヒルタウンの方が強い。
SANNAの小品/大倉山の集合住宅←大倉山ヒルタウンの近くにあるSANNAの設計による集合住宅。対称的なデザインでありながら、また別の形でコミュニティの形成への提案がある。